theyの訳語

Skeltia_vergberさん*1のお知り合いであるhirokumaさんが英語のtheyを「かれら」と訳していると記している*2
私は以前無自覚的にtheyを「彼ら」と訳していた。ある時、それは差別表現ですよと指摘された。考えてみれば、theyを「彼ら」と訳すとき、theyの中のジェンダー構成をいちいち考えているわけではない。現実的に考えれば、(日本語としては煩わしくなるかも知れないが)〈彼・彼女ら〉と訳すのが妥当だろう。それを勝手に〈彼(he)〉で代表させていたわけだ。その指摘以来、私は複数の人を指すtheyは「その人たち」と訳すようにしている。
さて、hirokumaさんが、


語源的にはどうなのか知りませんが、「かれ」という用語が男性を意味していて、「かれら」という用語が男性も女性も含む意味になっているのは、どうも女性は「ら」という複数形の部分でしか捉えられていないからなのじゃないかという気がします。



だいたい「彼女」を「かれじょ」ではなく「かのじょ」と発音しているあたり、「かれのじょ=彼の女」が音便化したという想像がつき、ということは女性は男性の所有格でしか表現されえない存在として規定されていたのではないかと。

と書いていることについて、それは違うだろうと思ったのだが、コメント欄でCarawayという方が、

「彼」、「彼女」についていえば、「彼」は、元々、「彼氏」であり、本来の発音は、「かのうじ」、「かのし」であったはずです。「差別」が発生したのは、「氏」と「女」の間にであり、前者が「一般性」を意味としてもち、後者が「特殊性」を意味するがゆえに、前者が抜け落ちて、「彼」だけになってしまったのです。しかし、その後、何らかの理由により、「氏」が復活したことにより、「カレシ」になってしまうのです。すなわち、「彼女」の読みは不変であるのに、「彼氏」の読みには、変動があります。また、「彼氏」が異性のパートナーという「特殊」な意味しか持ち得なくなり、元々の一般的な意味合いでの用法は、「かのし」という現代では極めて「特殊」な読みをするときに限定されてしまったのです。「彼女」は、差別性の有無やその質、程度という問題はあるにしても、実は、コトバの意味としては、一般性も、特殊性の双方を持ち合わせ続けています。しかし、「彼氏」については、変動と断絶、分離がみられまます、つまり、男性の地位やあり方というもの自体に変動があるのではないでしょうか。そこら辺、歴史的、動態的にみていかないと、少々雑然とした議論になるのではないかなと思われたりもします。
と、意見を述べられている。ここで述べられている「彼氏」/「彼女」の対立については知らなかった。私の知識では、そもそも「か」は遠い方向を指示する。「こなた(此方)」に対する「かなた(彼方)」。「かれ(彼)」は遠くにあるものをいう指示代名詞で、「かの(彼の)」は体言に接続する連体詞。だから「彼」は人/モノ問わず、男/女を問わず指示した。また、「カノジョ(彼女)」は重箱読みであり、よく考えると日本語の単語としては不自然な感じがする。どこまで昔に遡るのかは知らない。何れにせよ、彼も彼女も〈人称代名詞〉ではなかったということが重要だ。近代化に伴う文化的・言語的衝突、英語その他の言語と日本語をどう摺り合わせるのかということから生まれたのが、彼であり、彼女であり、また彼らだったわけだ。但し、その誕生が正確に明治何年だったのかというのは私は知らない。これと同じ問題に、中国語では発音はそのままに、部首を操作すること(にんべん/おんなへんの対立)で対処した。