省というのは?

そういえば、6月15日は「千葉県民の日」だったですよ。
Skeltia_vergberさんからの問いかけに一応答えようと思っているのですが。
Skeltiaさんの問いかけは、


中国の事情はどうなんでしょう?「省」という意識と、日本でいう都道府県意識は類似するものと考えていいんですか?
そもそも中国で市町村合併なんてあり得るんですか?日本だけの文脈ですかね?
というもの。
これは全くの私的印象にすぎないのですが、中国人が自ら積極的に〈省〉としてのアイデンティティを主張するというのはあまり目や耳にしたことはありません。但し、違う政府に統治されてきた台湾は例外。また、中国は上からの〈道徳的キャンペーン〉が好きな国ではありますが、その呼びかけの対象は〈省〉ではなく、〈市〉以下の単位です。対外的な(観光客や投資の誘致のための)呼びかけを除いて、〈省〉が対内的に人民を自らにアイデンティファイさせようというのはあまりないのだろうと思います。また、広東人等々アイデンティファイの仕方はあるのですが、それは言語を初めとして、料理その他の文化的アイテムの共有に基づくものであり、〈省〉の境界とは必ずしも重ならないし、例えば広東人が、同じ広東省に住んでいながら言語その他の文化的アイテムを共有しない、例えば客家の人々に対しても、俺たち広東人という意識を持っているかどうかは甚だ心許ないんじゃないでしょうか。あと、〈省〉としてのアイデンティティが形成されるとしたら、スティグマとしてでしょうか。例えば、上海における出稼ぎ労働者の中心的な存在である安徽省の人々は、上海人から様々な差別的なスティグマを被っていますが、それがどれだけ内面化されているか、またそうしたスティグマに対してのリアクションがどんなものなのかはちょっとわかりません*1
ところで、実は、上海にいながら、上海人の知り合いというのはあまりいないのだ。中国人でも、北京その他の場所に生まれて、日本とか米国とかを経由して上海に偶々居着いた人たちばかり。そもそも上海人の定義そのものは、以前から人類学的・社会学的には問題となっているわけですが。少なくとも、〈上海語〉のネイティヴ・スピーカーではない。
中国人のアイデンティティの在り方というのは、言語とかエスニシティが絡まって複雑な様相を呈しているのですが、注目すべきは、〈姓〉*2へのアイデンティフィケーションでしょうか。東南アジアには〈姓〉毎の団体が軒を連ねていますが、最近大陸でも復活する傾向が続いているような気がします。勿論、韓国でもそうなんでしょうが、韓国人が日本や米国で〈金氏宗親会〉なんて作るの?
それから、中国における大規模な「市町村合併」の例としては、革命後の武漢市(湖北省)の創設があります。所謂「市町村合併」とは違うのでしょうけど、松江などの上海郊外地区が上海市内に組み込まれるようになったのは最近のこと。東京でいえば、それまで04地区だったところが、XX区になり、03になったという感じでしょうか。

*1:日本における県民アイデンティティにおいても、差別的スティグマとそれへのリアクションというのは重要なファクターだろうと思います。特に、千葉人のアイデンティティはそれ抜きにはあり得ない! 例えば、埼玉の人間に何かいうと、千葉に言われたくないというリアクションが返ってきたりとか。

*2:日本の〈苗字〉とは違う。