名倉山

日付は遡る。
20日六本木ヒルズの脇を下って、麻布十番に迷い込み、蕎麦屋を探す。 日本でいちばん何が食べたいかといえば蕎麦。12月には美味い蕎麦を食することには失敗した。蕎麦の快楽には2つある。ファスト・フードとしての蕎麦とスロー・フードとしての蕎麦。電車の時間を気にしながら、立ち食い蕎麦を大急ぎで啜り込むというのも、それはそれで粋なことだ。これとは逆に蕎麦を食べること。麻布十番は美味そうな飯屋が沢山あって、目移りしそうになるが、蕎麦を食べたいという一心なので、和食も洋食も中華も無視する。「更級堀井」を見つけて入ってみるが、時間が時間だけに、客は大入りで、少し失望。因みに、客の大半は地元のビジネス・ピープルではなく、カジュアルな格好をした観光客風。入ってしまったのだから仕方がない。スロー・フードとしての蕎麦の〈スロー〉を保証するのは酒。勿論、ビール、特に麒麟は蕎麦にも合うのだが、蕎麦屋でビールというのはなんだか葬式帰りみたいで、縁起が良くはないということはある。そうすると、日本酒しかない(焼酎についてはわからない)。また、私は酒は好きでも強くはないので、日本酒を1合呑むのにかなり時間がかかるというのも好都合。日本酒だが、会津「名倉山」にする。何故かといえば、いちばん安かったからという安易な理由。というか、リストにある酒がどれも知らない銘柄だったので、リスク回避という意味もある。だって、高くて不味ければ目も当てられないじゃないですか。実は福島の酒に対しては、とにかく甘いという偏見があって、それは私の好みに合わないので、酒屋でも福島の酒ということだけで選択の対象から外していた。しかし、「名倉山」はそうした偏見を打ち破るに十分の酒。たしかに甘口である。ただ、酒をゆっくり口に含んでも、べとべと感がない。さらさらというかクリアな味。これと似た酒はずっと昔に群馬で呑んだことがある。銘柄はたしか「武尊雪」(?)。しかし、香りはこちらの方がずっといい。蕎麦についていえば、つゆをつけずに山葵だけでいただいても大丈夫な味であるとはいっておこう。
それから、その近くのKOOTSという和風のカフェで八女茶を飲んでいるうちに、1合の酔いは醒めてしまう。