『無極(The Promise)』或いは饅頭怖い

 昨年末に観た*1 『無極(The Promise)』*2についてメモ書き。

 この映画はある意味で無国籍的である。中国の特定の王朝がリファーされているわけではない*3。台詞が中国語(マンダリン)であるのも、『藝妓回億録』で藝者が英語を話しているのと同様に考えればいいことだ。舞台はどこでも、『スター・ウォーズ』のようにどっかの〈銀河〉でもかまわない筈だ。しかし、ここから浮かび上がってくるのは、東亜細亜である。これはたんに日韓のスターが主演しているからではない。主な役名は、


 昆侖(張東健)
 光明(真田広之
 傾城(張柏芝
 無歓(謝霆鋒


であるが、平均的なリテラシーを持った東亜細亜人なら、これらを見て、すぐに大体のキャラクターを推測できてしまう*4。ある意味で、東亜細亜人の特権である。英文字幕では、これらは翻訳されずに固有名詞として表示されているので、中国語の知識のない人には、これらの言葉の意味は伝わらないことになる。
 役者に関しては、セシリア・チョンはもうちょっとどうにかならないのかと思ったが*5、張東健も真田広之もいいのだが、注目はニコラス・ツェーだね。人間ここまで性格が歪むものかよというキャラクターを見事に演じ切っている。
 ニコラス・ツェー演ずる無歓のキャラクター*6にも関わるのだが、この映画の物語の起源は饅頭である。屍が累々と横たわる戦場で、男の子が女の子に饅頭を1個取られてしまう。この2人の将来が無歓と傾城なのである。「人間ここまで性格が歪むものかよ」と書いたが、正確に言えば、「饅頭1個で人間ここまで性格が歪むものかよ」である。そういえば、『我愛揺滾楽』という雑誌(47期)の批評(「《無極》、中国電影百年的巓峰?」)は、そのことをもって、この映画の本質を「農村片」であるとしている*7
 あと、印象に残ったのは、「無極」ということに関係があるのだろうけど、同心円を強調したセット・デザイン。
 Peter Martinという人のレヴュー*8では、” As for the plot, well, it's not the factor that will drive repeat business (we'll get to that in a moment). The story tends to get lost in the blizzard of effects, and I couldn't tell you the particulars even if I tried to jot down notes in the dark of the theater.”ということだ。

*1:http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20051230/1135972381

*2:http://wwws.warnerbros.co.jp/promisemovie/ 中文のサイトは、http://www.thepromise.sina.com.cn/http://thepromise.cmcmovie.com/

*3:衣装は正子公也がデザインしているので、日本的な雰囲気が強いともいえる

*4:「昆侖」については多少特別な知識が必要かも知れない。西王母のいる山は正式には「昆崙」であろうが、「昆侖」でも通じるだろう。

*5:とはいっても、あれはどうでもいい演技が要請されるポジションだったのかも知れないが。

*6:下で引用するPeter Martinがいうようなたんなる” a spoiled rich boy”ではない。

*7:普通の見方だと、” a love story between a royal concubine and a slave”( http://www.monkeypeaches.com/wuji.html)として定義されることになるのだろうか。

*8:http://www.twitchfilm.net/archives/004869.html