Lost

 ところで、村井寛志氏*1とは行き違いの連続で、9月に上海で会おうといっていたのに、私の上海行きが遅れたせいで、私が上海に行ったときには、既に村井氏は帰国していた。じゃ、12月にでもと言っていたのだが、今回村井氏が上海に来るのは私が日本にいる間である。

 さて、先月、私たちは夫婦揃って、アメリカのTVドラマLost*2にはまってしまい、そのファースト・シーズンのDVDを一気に視てしまった*3アメリカでは既にセカンド・シーズンのオン・エアが開始されているという。で、こちらとしても、セカンド・シーズンのDVDが出るのを心待ちにしている次第。
 Lostは、言ってしまえば、飛行機が南海の〈無人島〉*4に墜落した、その後のサヴァイヴァル生活を描くというものである。一時流行ったリアリティTVのドラマ版といえるかも知れない。
 で、気づいたことをちょっとメモしておく。
 まず、普通のアメリカのドラマと違って、主な舞台がアメリカ国外(主として、オーストラリア)に設定されていること。〈無人島〉の撮影はハワイで行われたらしいが。そこで気になったのは、オーストラリアの表象である。Down Underという名前の如く、ここではオーストラリアはあらゆる運命の吹き溜まりの地として表象されている。私は全く無知なので、西洋(特に英語圏)におけるオーストラリア表象の歴史の中で、このドラマはどのように位置づけられるのか、識者に是非伺ってみたいものだ。
 登場人物に関して、マルティエスニックな構成を取るというのは、最近のアメリカのドラマでは、PCということからも、当たり前なのだろう。Lostの登場人物で目を引くのは、韓国人カップルとイラク人の存在だろう。韓国人の場合は、ここでは言語の壁=英語が話せないフリという要素が付け加えられているのだが、ここでは亜細亜人表象の問題は取り敢えずスルーしておく*5イラク人のサイードは、イラクの元「共和国防衛隊」*6のメンバーで、1991年の湾岸戦争にも(勿論、アメリカの敵として!)参加したという設定になっている。しかし、サイードはネガティヴなキャラクターではない。登場人物の中でも、最もポジティヴな、すなわちサヴァイヴァル能力が高く、冷静沈着で、常に合理的思考が可能な、人物である。こうしたキャラクターの設定に対して、イラク戦争もまだまだ継続中のアメリカで、どのような反応があるのか、取り敢えず興味津々。
 このドラマの最大の特徴といってもいいのかも知れないが、登場人物たちの過去の回想が大々的にフィーチャーされている。寧ろ、時間としては、〈無人島〉の場面よりも多いんじゃないかしら。それぞれの過去のトラウマを伴ったしがらみによって、〈運命の吹き溜まりの地〉であるオーストラリアに吹き寄せられ、〈無人島〉に墜落することになる件の飛行機(それはアメリカ、ロサンジェルスに回帰する飛行機)に導かれるということである。過去の回想が始まると、〈無人島〉での出来事が中断され、その都度いらついたりもしたのだけど、そうまでして、〈過去〉に拘るのは、勿論、視聴者への目眩まし的戦術だということはあるにせよ、このドラマは〈社会の心理学化〉ということを体現しているのであって、過去の(幼少時まで遡る)トラウマを伴った心的経験こそが現在を決定してしまうというイデオロギーに、少なくともジェンダーとか年齢とかエスニシティとかいった属性はそれぞれ異なる登場人物たちは取り憑かれているということなのだろうか。また、このイデオロギーは、上述の属性の差異を越えて、かなり共感されているということだろうか。

*1:http://d.hatena.ne.jp/murai_hiroshi/

*2:http://abc.go.com/primetime/lost/index.html

*3:それが海賊版かどうかなんて、野暮なことを訊くものではない。

*4:実際にはそうではないのだが。

*5:それにしても、彼の故郷である〈韓国の漁村〉のシーンが出てくるのだけれど、あれは温帯でもかなり北部に属す筈の韓国の海岸ではなく、熱帯の海岸であり、ハワイで撮影したことがみえみえ。

*6:中文字幕ではそうなっていた。日本ではたしか「大統領親衛隊」とか言われていたんじゃなかったっけ。